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映画は楽しむもの

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映画『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督)

 「確かに子どもには難しいわ」。上映後に後ろを歩く夫婦がこう話していた。ネット評を見ての感想だろう。我が家では記者以外全員が初日に見に行き、侃々諤々の議論の末「混沌」(長女)というキーワードが上がっていた。宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』だ。

 自分で見て「難しい」「分からない」という意味が分かった。タイトルは吉野源三郎さんのロングセラー小説とほとんど関係がない。映画がタイトルに対する宮﨑さんの回答というわけでもない。主人公眞人の自傷行為の意味は?眞人の新たな母となる、母の妹ナツコがなぜ異界に行ったのか、なぜ眞人は好きでもないナツコを探しに出かけたのか…など、確かに疑問符はたくさん付く。

 だが、記者は家族の会話から疑問を持つことを警戒し、あえてそこに立ち止まらず宮崎ワールドに入り込んだ。

 パラレルワールド、グロテスクな生き物たち、冒険活劇ファンタジーは宮崎アニメの王道だ。最近読んだ村上春樹さん著『街とその不確かな壁』の世界観と似ている。いずれもパラレルワールドである異界との往還が重要なモチーフ。眞人が迷い込む「下の世界」は「ここは死んだやつの方が多いんだ」などと死の世界、または死に隣接した世界であることを示している。死者が普通に隣にいる世界を描くコロンビアのノーベル賞作家ガルシア・マルケスの世界観にも近い。面白かった。記者は楽しんだ。

 本の場合、何度も前に戻って読み直せる。家で見るビデオも巻き戻せる。しかし、映画館で見る場合、それはできない。『君たちは…』の事前発表はタイトルとポスターだけ。公開まで一切宣伝せず、パンフレットも当初は発売しないという徹底ぶり。その話題になった宣伝手法によって逆に期待を持たせ、必要以上に考えさせ、一部に「期待外れ」「分からない」といったネガティブな感想をもたらしたということはないだろうか。映画はまず、楽しめないと。(2023.07.25 74回)

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