学校教育

「きれい」の基準は?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『答えは風のなか』重松清著

 ヒロシの学校では入学式に合わせて新入生を歓迎するポスターをつくることになった。キャッチコピー〈大空にはばたく第三小〉に合わせて、〈きれいな空の絵〉を募集して、その中でいちばん人気だった絵をポスターに使う。二十点を超えた応募作品の空の色はすべて青。唯一ヒロシが描いた今にも雨が降りだしそうな、くもり空を除いては。

 キャッチコピーの文言とポスター用ということを考えれば、青空がふさわしい。だがヒロシは「きれいなのは、やっぱり雨が降る直前。〈中略〉ほんとうにサイコーなのだ」と思っている。ヒロシの先生は「ふつうは、青い空をきれいな空って言うの」と描き直しを促すのだが…。

 重松清さんの『きみの町で』(朝日出版社)の続編『答えは風のなか』。命の軽重、ジェンダー、差別などを身近なエピソードで子どもたちに問う10の短編集の中で私が最も好きな一遍「いちばんきれいな空」のあらすじだ。

 「青い空」は同調圧力の強い学校で「常識」に馴らされた考え方を象徴する。自分が同じ立場でも青い空を描くと思う。空を観察しなくても、常識が青い空を描かせてくれる。多様性が大事と言われながら、実際は同じ価値観を求められる。その圧力から逃れるのは難しい。青い空以外の絵を描くことは、ポスター選びの競争から降りることにもつながる。競争というレールから外れて、自分の好きな道を貫くのは勇気がいる。挑戦してみてもいいんじゃないか。君ならどうする。重松さんは「答えは風のなか。風を見つめて探すには…つまり顔を上げてほしかったのです」と記している。

 曇りが多い梅雨の季節。雲がつくる空の変化を楽しもう。ちなみに私が最近もっともきれいと思ったのは、雨上がりの朝方、3本の虹が同時に見えた空だ。空の変化を楽しむガイドには高橋健司著『空の名前』(光琳社出版)がお勧めだ。(了)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加