学校教育

カエルの子は…

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『国外逃亡塾』白川寧々著

 記者の両親が生まれた1930年代半ば、英語は敵国語だった。両親とほぼ30歳差の記者が高校・大学に通った1980年代後半から90年代初め、「これからは英語が必須」と言われつつ、海外留学する生徒は限られていた。「必須」と言われても当時の日本はバブル真っ盛り。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年、米ハーバード大学の故エズラ・ヴォーゲル教授著)などと称賛されていた。海外への憧れはあってもあくまでベースは日本だ。

 その後、就職とともにバブルは崩壊し、日本は失われた30年から抜け出せないでいる。気が付けば、日本の賃金は、経済協力開発機構(OECD)35カ国中22位(20年調査)。日本の平均賃金は424万円で1位の米国(763万円)の約半分。韓国にも抜かれている。記者が勤める斜陽産業の活字メディアも青息吐息だ。記者は今でも英語が苦手だ。「ナンバーワンじゃなくても」などとぬるま湯に浸っている間に井の中の温度はどんどん上がり、長い時間をかけて麻痺しながらゆでガエルとなった。

 ゆでガエル世代の子どもたちが社会に出始めている。首都圏の難関私立大学群GMARCH(学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政)を卒業しても就活でさんざん自信を失った上に本意ではない就職先に甘んじざるを得ない子がいる。他にも大卒で初任給は手取り10万円台前半などと聞くと、申し訳なさとそんな状況にしてしまった大人としての責任を感じる。「カエルの子はカエル」にはなってほしくない、と切に願う。

 そんな時に勧められたのが、白川寧々さん著『国外逃亡塾』(アルク)だ。白川さんのプロフィールを見ると、起業家。華僑。日中英のトライリンガルとある。日本の高校を卒業後、米デューク大学に進学。米コンサルを経てマサチューセッツ工科大学(МIT)でМBA取得し、現在は教育革命家とも名乗っている。

 白川さんは「日本の大学にこれから入るのは自ら高値で赤字債権をかいにいくようなもの」と言い切る。高額な学費を払い、日本の一流大学から一流企業に就職したエリートの初任給は20万円。隣の席で働くグローバルキャリアの外国人は端から年収1000万円超のグローバル賃金だったりと実例を挙げ、日本のエリートコースが如何にグローバルからかけ離れた井の中の蛙であるかを説く。その上で「沈みゆく船(=日本の教育)の修繕に付き合うよりも、とっとと違う船に飛び乗るほうが、あるいは、砂浜にでも上陸したほうが早いのだ」と日本脱出を勧め、「普通の努力・経済力で可能な海外大学」へ進学する方法を具体的に指南している。

 賃金の多寡だけが問題ではない。新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻で世界の変化のスピードはこれまで以上に加速している。白川さんは「国の大きな運命がどうなるか知らんけど、個人がそれに付き合わされない力を持つことこそが本当の『安定』だし、そもそも国の運命の話をするときに国民の国際的競争力を下げていいわけがない」と喝破。「国外逃亡塾」は激変についていけない日本を見限りながらも、これからの日本の教育の選択肢を示した警世の書にもなっている。(了)

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