2011年の今頃、4月から小学5、6年生に外国語活動(英語)が必修化されるのを前に現場の準備状況や課題などを取材した。早期教育、英語教育の免許を持たない小学校教員の指導、小中連携…。さまざまな問題点を指摘されながらの導入だった。電子黒板が教室に入ったのもこの頃。ある校長は「教員は英語や教授法など覚えなくたって、電子黒板の操作法さえ覚えれば大丈夫」と話していた。
それから13年。記者は教育の取材現場に戻った。4月、英語科に子ども用デジタル教科書が本格導入される。その前に都内の小学校で5年生の先進的な授業を見学させてもらった。GIGAスクール構想で子どもたちは一人一台の端末を使っていた。
電子黒板のスピーカーからでは聴き取れなかった音声を、自分の端末にイヤホンを差し込んで聞き取ろうとしていた。ノート代わりにそれぞれが端末に書いた内容を共有しながら進められる授業が行われていた。個別最適な学びと協働的な学び。先生は教え込むのではなく、考えさせ議論を促すファシリテーター役だった。
英語という教科の特性と情報通信技術(ICT)によってもたらされた授業スタイルだろう。そもそも英語は、コミュニケーションの道具。受験で点数を競うためのものではない。自分だけが話せても、コミュニケーションは相手がいないと成り立たない。だからできる子も協働する。できない子も相手に迷惑を掛けないよう自学自習する。
授業を見せてくれた先生は、英語だけでなくほかの教科でも同様の手法を取り入れ始めている。文部科学省が設定した中高生の英語力の目標には未達が続いているが、小学校英語がもたらした最も大きなものは、従来の教師が教え込む一斉授業からの授業スタイルの変革かもしれない。(2024.02.14 No.117)