本のこと

推しの描き方

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『真田の具足師』(武川佑著)

 戦国武将と言えば、小さい頃から真田幸村が好きだ。猿飛佐助や霧隠才蔵ら忍者を使うスパイマスターであり、滅びの美学に殉じた知将。「真田」とある本は、つい手に取ってしまう。武川佑さん著『真田の具足師』(2023年10月、PHP)もそんな1冊だ。


 幸村が大坂冬の陣で身にまとった赤い甲冑を作った職人の話だ。帯には「人の死なない具足を作りたい」「甲冑師たちの命懸けの闘い」とある。技術者たちの挫折と栄光を描くプロジェクトXの戦国版か、と期待は高まる。


 だが、甲冑の作り方などは細かく書いてあるのだが、肝心の赤備えの性能が他に比べて優れている点が伝わってこない。強度を高め、軽さを追求する技術開発のブレークスルーも物足りない。せっかく面白い着眼点だったのに…、と勝手に思い描いていたストーリーとは異なり、少々残念に感じた。そう感じ始めるとストーリー自体の奇想天外さが鼻につき始め、今一つのめり込むことができなかった(ごめんなさい)。

 同じ武器を扱ったものでは、今村翔吾さんの『塞王の楯』は石垣と鉄砲の技術が切磋琢磨するライバル関係が全体のテーマとなっており、楽しめた。史実は動かせないだけに、歴史小説の面白さは奇想天外さを「あり得るかも」と思わせるリアリティにかかっているように思う。戦争という行為の愚かさも描き切っていた。


 そういえば、以前読んだ今村さんの真田もの『幸村を討て』は、歴史エンターテイメントとして大変楽しめたものの、ファンにとっては幸村の描き方に不満が残った。『具足師』も単に「推し」がイメージ通りに描かれていないことが消化不良の原因かしら。(2024.04.14 No.120)

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