『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著)
緑色の奇態な格好をした人の写真が表紙になっている新書本が、書店で平積みになっていた。今年出版された続編ではなく最初に書かれた本を手に取った。初めて読む著者の本は、1作目を読むようにしている。昆虫学者(バッタ博士)、前野ウルド浩太郎さん著『バッタを倒しにアフリカへ』(2017年5月、光文社新書)だ。
少し前に、アフリカでAIを活用してバッタ被害を食い止めたという記事を読んだ。本書のまえがきには「『ファーブル昆虫記』に感銘を受け、将来は昆虫学者になろうと心に誓っていた」とある。本書にファーブルのようなわくわくする昆虫記を期待していた。
実際は、大量発生し食糧危機を引き起こすバッタではなく、ポストドクターの生態とその就職活動に多くの紙幅が割かれ、知りたかったバッタについてはごく一部にとどまっていた。とても残念だった。
ただ、「激変する温度変化にバッタがどう対応しているのか」。その謎を追うくだりは引き込まれる。観察し、仮説を立て、実験してデータを取る。それを検証し、証明する。教育現場では「探求学習」と言われ、注目を集めている。記者の仕事にも似ている。分野は違っても探究のプロである博士の実際のアプローチはとても勉強になる。
本書では仮説を立てるところで終わっている。普段は1冊読んで期待外れだと、その著者のものは手に取らないのだが、続編のまえがきには「学術的要素をふんだんに盛り込んだ本を執筆できる準備が整った」とある。著者は才能が1冊目に凝縮される小説家ではなく、地道な研究を積み重ねる学者である。もう1冊読んでみようかな。(2024.07.07 No.130)