本のこと

日本の精神科医療とは

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『精神科医の本音』(益田裕介著)

 メンタルの不調に見舞われて以降、いろんな精神医学の入門書を読んだ。例外なくそれぞれの疾患の説明に終始し、無料のネット情報と五十歩百歩の本ばかりだった。その点、精神科医の益田裕介さんが記した『精神科医の本音』(2022年8月、SB新書)は、日本の精神科医療の裏側と患者の要望とのギャップを説明するものになっている。


 記者が通院しているクリニックは、正に3分診療で薬を処方するだけ。前回来院したときからの状況を伝えると何のアドバイスもなく、「では次は1カ月後の〇日でいかがでしょう」と終わってしまう。何のために会社を休んでまで行っているのか分からない。カウンセリングをしてもらいたいと言うと、「以前はやっていたが、手が回らなくなって止めた」という。食い下がると、カウンセリングを行っているクリニックや認知行動療法のワークブックを紹介された。遠くて通えない。ワークブックは難しくて一人では理解できなかった。

 納得がいかない、と思いながら、自分をだましだまし通っている。保険診療の対象にならず高額で、しかも治る保証のない治療には二の足を踏むからだ。


 本書はそんな日本の精神医療について分かりやすく解説する。「精神科の治療=精神科医が患者さんとじっくり向き合って、時間をかけてカウンセリングしてくれるという、実体にそぐわないイメージがあるのかもしれません」「長くやっても同じなら、点数表に従って、再診は5分+αでいこうと考えるのは自然なことですし、(診療報酬)制度としてそう設計されているのです」。


 つまり患者が精神科医療に対して間違ったイメージを持っているから、期待外れと感じるのだ。なるほど。その説明には納得した。だが、納得できない。そもそもそんな医療体制自体が間違ってないか、と一患者としては思う。少なくとも心理士が行うカウンセリングも診療報酬の対象とすべきだろう。


 本書は「精神科の患者さんの病気は、個人の脳だけの問題に収まらないのです。社会的な問題も絡みます」と指摘し、「精神疾患は増えていく」と予想する。AIによって簡単な作業しかできない人はいらないという世の中になっていく。ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増える中で、やりがいを持てないことに悩みを抱える人も増えていくかもしれない。


 幸い記者は、原因となった部署から異動となり、一進一退を繰り返しながらも快方に向かっている(のだと思う)。が、別の再発要因も迫っているようだ。益田さんについてはユーチューブで精神疾患について説明しているので知った。分かりやすく希望が持てる解説だ。今後は是非、「社会的問題」についても踏み込んで語ってほしい。(2024.07.29 No.135)

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