本のこと

八月のスタンダードに

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『八月の御所グラウンド』(万城目学著)

 万城目学さん著『八月の御所グラウンド』(2023年8月、文藝春秋)は、初版発行から1年がたつのに、横浜市立図書館での予約件数は600人を超える人気作品だ。それが、地域の公民館のような地区センターという近所の施設に配架してあった。ラッキーである。地区センターではこんなことが時々ある。直木賞受賞作ということ以外、何の情報もなく手に取った。


 「連日の炎暑にやられ、身体から力が抜けていく。脳みそからあらゆる前向きな意思や意欲が溶け出し、…」。体温を超える危険な暑さが続く今夏、小説と同じ環境で読んだので、物語にすっと入れた。

 彼女にふられ、「丸ごと地獄の釜」のような暑さの京都で自堕落に過ごす大学4回生の主人公が、借金のかたとして草野球大会に駆り出される。9人のメンバーがそろわない中、奇跡が起きる。現れた助っ人たちはこの世のものではなく…。彼らはただ「野球がしたかった」のだ。

 お盆、終戦記念日と続く鎮魂の季節だ。死者をもてなすのにぴったりなこの時期に読めたのは二重にラッキーだった。中日の14日、母の墓参りを済ませた。送り盆の15日、これを書いている。昨夏訪れた京都のまちを思い出し、京都五山の送り火に思いをはせながら。読書は季節や場所など読む環境も感じ方に作用する。『火垂るの墓』と並び、本書は日本のこの時期に欠かせないスタンダードな1冊になるかもしれない。


 本書に収録されているもう一篇の『十二月の都大路上下(カケ)ル』は、雪が舞い散る、これも京都が舞台。季節は正反対ではあるが、テーマは駅伝。最近、駅伝の物語を続けて読んでいたので、不思議な縁を感じる1冊だ。(2024.08.15 No.136)

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