『黒い絵』(原田マハ著)
芥川龍之介の『地獄変』を下敷きにした。ミレーの絵の中で生きる、シェークスピアの戯曲『ハムレット』の登場人物オフィーリアが語り手になる。そんな物語をアート小説の名手、原田マハさんが創作した。面白くないわけがない。短編集『黒い絵』(2023年11月、講談社)所収の「オフィーリア」だ。
前回紹介した『板上に咲く』とは趣を180度変えた、背筋の凍るノワール小説だ。テイストは、原田さんの著書の中で記者が最も好きな『サロメ』に近い。棟方志功を描いた『板上…』のように実在した人物を題材にしたアート小説は、史実から大きく外れることはできない。しかし、「オフィーリア」は100%の創作。「死の直前の一瞬」を描き、「絵の中に閉じ込め、永遠に生きさせる」作中画を短編小説に閉じ込めた。西洋画をモチーフに使ったことで、『地獄変』とは違う読後感をもたらした。
アートへの狂気。ゴッホ、芥川をはじめ天才、鬼才と言われた多くのアーチストが持つ黒い情念。今後も是非、原田作品の柱のひとつとして書き続けてほしい。(2024.09.03 No.141)