本のこと

ありがたい復刻版

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『ぼくの航海日誌』(田村隆一著)

 昨年12月、図書館の書架で偶然、田村隆一さんの『ぼくの航海日誌』(中央公論、1991年11月)という本を見つけた。田村さんは記者に詩の魅力を教えてくれた。以前、夢中になり著作を読み漁ったが、同書は未読だった。


 複数の図書館で蔵書検索をかけると、他にも読んだことのない本が見つかった。『詩人の旅』(中公文庫、2019年10月)、『ぼくのミステリ・マップ』(同、2023年2月)、『ぼくの鎌倉散歩』(港の人、2020年12月)だ。いずれも詩が散りばめられたエッセイ集の復刻版だ。夢中だった当時は手に入らなかった、記者にとっては新しいものである。復刻版はとてもありがたい。年末年始を楽しんだ。


 同時期に、昨年11月に亡くなった国民的詩人、谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』を読み返したり、現代の人気作家による同時代の旅行エッセイ集を読んだのだが、田村さんの言葉ほど響かなかった。「そもそも芸術というのは好き嫌いの世界でしょう」と田村さんは語っている(『ぼくのミステリ・マップ』)。


 夢中になれるほどの「好き」に出会えるのは稀有だ。一時夢中になっても時を経て読むと輝きが失せるものが多い中、田村さんの言葉は色褪せてなかった。詩集『四千の日と夜』を本棚の奥から引っ張り出した。初めて読んだときと変わらない戦慄を覚えた。(2025.01.05 No.152)

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