『91歳、ヨタヘロ快走中』(樋口恵子著)
報道の大先輩でもある評論家、樋口恵子さんによる「老い」の実況報告が楽しみだ。『91歳、ヨタヘロ快走中』(2024年3月、婦人之友社)はシリーズ最新作。介護保険制度の創設に奔走した樋口さんが「要支援1」の認定を受けたという。
「ここ2~3年の私の心身状況の変化、ヨタヘロぶりは日進月歩、とどまるところを知りません」と記す。ヨタヘロとは、自立した生活が送れる健康寿命は超えたけれど、要介護とはならない状態を指す。ヨタヨタ、ヘロヘロとよろめきながら進むという樋口さんの造語だ。記者の父も認定を受けていているので、樋口さんの弱り具合はある程度想像がつく。
最新作の本書では過去を振り返る内容が増え、「今日から明日へのリレーという気持ちが強くなりました」と老いの先を意識した記述が増えていて心配である。
シリーズの面白さは、樋口さん自らの老いにまつわるヨタヘロぶりをさらけ出し、ユーモラスに報告している点だ。類例をほかに知らない。ヨタヘロ期の当事者による極めて貴重な報告である。ブルーオーシャンを悠々と泳ぐクジラのようであり、「人生を全うしなければ」と読んでいて元気が出る。
「老いってとっても個性的」だそうだ。樋口さんの場合、これだけの本をつくる力が残っている。樋口先輩にはこのまま「人生百年時代」という人類にとって未知の世界の水先案内人として、ヨタヘロ期以降もできるだけ長く実況報告を続けてほしい。快走しなくても、ゆっくり転ばないように。(2025.01.10 No.154)