『老いを読む 老いを書く』(酒井順子著)
目下の記者の最大の関心事は「定年」。転機に備えヒントを得ようと、やみくもに本を読み漁ってきたが、「老い」に関する名著をリスト化し、的確な解説もしてくれるガイド的な本が出版された。エッセイスト酒井順子さん著『老いを読む 老いを書く』(講談社現代新書、24年11月)である。
「先人・達人たちは老後をいかに乗り切ったか?」。四苦(生老病死)の一つ「老」。本書は、古今の名著を取り上げ、日本の老いの精神史を読み解いている。テーマは「定年クライシス」から、記者の関心事のちょっと先「人生100年時代」「迫りくる死」まで幅広く論じている。
本書が示しているのは、老いることの難しさだ。酒井さんは『竹取物語』の時代から「人々がいかに『老い』を厭うてきたかを伝えている」と指摘し、「既に現役感を失ってしまった老人が、現役の中に混じろうとする様に対して、(清少納言、兼好法師の)二人とも嫌悪感を抱いている」と書く。その上で『方丈記』に触れ、「誰の視線を気にすることもなく衰えて死んでいった、(鴨)長明。その姿は、今となっては手に入れることが困難な、一つの理想の老い姿なのだ」と結論付ける。方丈記は何度も読んでいて、酒井さんに同意する。
「手に入れることが困難」だから人はあがく。特に男は。そんな「老い本」を酒井さんはいくつも紹介してくれる。先日、あがいているお年寄りから「老害」に遭った。仕事関係で知り合った元気なお年寄りに頼まれて取材先を紹介したのだが、キーマンはドタキャン。お年寄りは忙しいさなか相手をしてくれたその取材先を昭和の感覚で不快な気分にさせ、紹介した記者も面目丸つぶれだった。そのお年寄りは、本書でも「自然の摂理に反した」「何歳になってもギンギンで!」という風潮の代表格として取り上げられている「団塊世代」に属する。
清少納言や兼好法師の気持ちがよく分かった。取材先にはお詫びしかない。老害初体験。自分のふるまい方を考える上で良い勉強になった、…と思いたい。(2025.03.02 No.159)