『きみの話を聞かせてくれよ』(村上雅郁著)
子どもの頃は気持ちを表現する力に欠ける。多少力がついた頃にはその気持ちを忘れている。感性は鈍り、関心は薄れる。結局、その頃の感情は言語化されないまま置き去りにされる。時々、子どもの感性と表現力を併せ持つ人がいる。児童文学(ヤングアダルト)作家の村上雅郁さんもその1人だ。
仕事で村上さんの講演を聞く機会があり、デビュー作『あの子の秘密』、最新作『かなたのif』と読んだ。『きみの話を聞かせてくれよ』(23年4月、フレーベル館)が3作目だ。いずれも子どもたちの揺れ動く多感で繊細な感情を描いている。『きみの…』は、「クラスになじめなかったり、大切な人とすれりがってしまったり…」、思春期の中学生でしか持ち得ない気持ちをうまくすくい取る。まるで、インナーチャイルドと対話しているかのように。
インナーチャイルドは、心理学用語で、幼少期に傷ついた記憶や感情のことだ。村上さん自身、不登校経験者だ。「自分を不良品だと思っていた」「しんどかった子ども時代」を過ごしたという。作品はだから、体験を元に当時の自分と対話しながらできたのではないか。村上さんにとって著作は、インナーチャイルドを癒す行為なのかもしれないと感じた。
本書には村上さん自身がモデルの登場人物、黒野くんが出てくる。講演ではその部分を朗読してくれた。不登校を経験し、人の心の痛みが分かる黒野くんはタイトルのように「きみの話を聞かせてくれよ」と生徒たちに近づき、悩みを傾聴する。そしてその悩みをくだらないと一蹴する人に対してはこう言う。「まわりはその程度のことだって思っても、本人にとっては大きなことなんですよ」。それぞれの悩みに共感的に接するのが村上さんの作風だ。
もうひとりの村上(春樹)さんは、川上未映子さんのインタビュー(『みみずくは黄昏に飛びたつ』)で「優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない」と言っていたが、こちらの村上(雅郁)さんのメッセージは児童書という表現の場を得て面はゆいほど純粋でストレートだ。
村上さんは大人の無理解が子どもを失望させることがないよう「大人も読んでください」と話していた。子どもの気持ちを理解したい大人にお勧めである。『あの子…』『かなた…』はSFとしても楽しめる。(2025.03.26 No.161)