『介護未満の父に起きたこと』(ジェーン・スー著)
深刻にならないように、ユーモラスに書いてあるのだが、全く笑えない。ジェーン・スーさん著『介護未満の父に起きたこと』(2025年8月、新潮新書)である。スーさんのお父様の年齢や一人暮らしという状況、要支援の度合いは、記者の父とほぼ同じ。一つ一つ、身につまされるからだ。
そのうち読もうと図書館に予約していたが数百人待ち。そうこうするうちに年始から父が左半身の痛みを訴えた。その後も「実は…」と体調不良を打ち明け始めると、出るわ出るわ。放置しておくと危険な良性疾患が判明した。手術をしようにも血圧が高すぎて危険。本書はそんなときに、少しでもヒントになればと購入した。
〈父が精神的・肉体的に健やかなひとり暮らしを1日でも長く続ける〉。目標は全く同じである。スーさんは〈問題解決マニア〉と自称し、〈感情を使わず、まるで仕事のように処理するのが吉〉と書き、そのための仕組みづくりに奔走する。具体的でとても参考になる実用書だ。本書で紹介している高齢者の低栄養を予防する栄養補助飲料は早速導入した。
〈老いゆく父にとって「決めること」が年々負荷の強い作業になっているようなのだ〉〈「ちゃんと説明して」は、80歳以上の老人には厳しい要求だ〉と、高齢者の気持ちや能力に配慮した接し方を突き付けられ、反省しきりである。
ただ、スーさんも〈まるで仕事のように処理する〉ことはできない。実際には〈心は常に「もっと正面から積極的に取り組んだ方がいいのでは?」と「いや、これで十分なはずだ」のあいだを行ったり来たり〉。〈1日に二度か三度ほど、ラインの交換をしている〉。親孝行な娘の葛藤がつぶさに語られ、介護を巡る日記文学になっている。記者の気持ちを的確に活字にしてくれているようで、胸がすく。
本書は、本格的な介護が始まる前で終わっているが、〈人生は簡単には終わらない〉。要支援から要介護へ。親の介護は人生1度か2度のこと。だから慣れることはないし、終わりが見えない。ぜひその後を書き続け、ひとり暮らしの親を支える1つの介護モデルを提示してほしい。
本書にあるように、相談できる人の存在は極めて重要だ。記者も今回、周囲に大変助けられた。そして個人的な体験からもう一つ。父の左半身の痛みの原因は、肋骨に入ったひびだった。誤診し全く役に立たなかったかかりつけ医(内科、整形外科)に見切りをつけ、休日に緊急で診てもらい原因を特定してくれたクリニック(内科)に主治医を替えた。医者選びは疎かにしてはいけない。(2026.01.25 No.186)