『モダン』(原田マハ著)
原田マハさん著『モダン』(2015年4月、文藝春秋)は、モダンアートをテーマにした短編集だ。原田さんのアート小説は目の前に風景が広がる。日常とは異なる別世界にすぐに入り込めるのがいい。本書は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵の作品がテーマだ。
いずれも中心にあるのは磁力の強いアートだ。本書では、アンドリュー・ワイエスの『クリスティーナの世界』であり、ピカソの『鏡の中の少女』『アヴィニョンの娘たち』などで、作品を巡るショートストーリーが展開してく。
「中断された展覧会の記憶」は、福島県の美術館が開いていたワイエス展が11年3月の東日本大震災に伴う原発事故で中断される。MoMAから貸し出された『クリスティーナの世界』が会期中に送還されることになる。
ネットで検索して作品を見てみる。曇り空の下、足が不自由なクリスティーナが草原を這うように進む姿が描かれている。〈ワイエスがその姿に見たのは、絶望ではない。光だった。〉被災地の人々も同様に作品に「光」を見ていた。
この物語の主役は『クリスティーナ…』という絵画だ。原田さんの作品は、それぞれのアートが俳句の季語のような役割を果たす。俳句の主役は季語だ。文章という表現形態に主役である絵画の視覚情報が季語として付されることで、読者に説明不要な言葉以上の感情を呼び起こし、別世界に連れていく。読者も「光」を見る。
事故から15年の節目。4月28日から東京都美術館でワイエス展が開催される。『クリスティーナ…』が来るかどうかの情報はないが、クリスティーナをモチーフにした絵は展示されるという。会ってこようと思う。(2026.01.31 No.187)