『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、凸凹な子どもたちへの50のミッション』(東京大学先端科学技術研究センター 中邑研究室編、どく社、2021年)
記者も参加してみたい、というのが率直な感想だ。集まったギフテッド、異才の子どもたちは、頭だけでなく、手足と五感、コミュニケーション能力まで総動員してミッションに取り組む。彼らは異才ゆえに学校に馴染めず、不登校になっている例が多いという。『学校の枠をはずした 凸凹な子どもたちへの50のミッション』(東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室編)は、2014~20年に行われた東京大学「異才発掘プロジェクトROCKET(ロケット)」の軌跡だ。300を超えるプログラムから、厳選された50のプログラムを追体験できる。
例えば近代文明を考える旅はこうだ。スイスで障害者スポーツの祭典、サイバスロンを見学した後に、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所を巡る。ディレクターが問い掛ける。「この二つの共通点は、なんだと思う?」。黙り込んだ子どもたちにディレクターは「人を優劣で選別する優勢思想が根っこにないだろうか。そういう価値観が社会や僕らの心の中にも潜んでいると思わないか?」
東京・渋谷のコンビニで「サカナを探して、図鑑をつくる」では、「コンビニにサカナなんていないよ」と言っていた子どもたちが、サケの塩焼き弁当や原材料表示に「魚肉(タラ等)」など計30種の魚を発見する。
これらがどうして異才を育てることにつながるのか。本書は「ロケットはエリート教育の場ではない」という。「突き抜けた異才は『育てる』のではなく、『勝手に育つ』」ものであり、「その子が持つ凸(得意)に目を向け、ぐんぐん伸ばしていくことのできる環境づくりが大切です」と説く。飛び級して大学の高等数学を教えるわけではない。座学ではなく、前述のような探求型学習の場を提供する。子どもたちが、そこで体得した学び方を日常に持ち帰って実践できるきっかけづくりという位置づけだ。ロケットで講師を務めた解剖学者の養老孟子さんは別の本で「脳みそを本当に発達させようと思ったら、座学中心の教育なんてありえない」と言っている。
文部科学省は、ギフテッドについて、対象とする才能の定義を見送った上で、22年度から実践事例を集め、効果的な取り組みを全国に広げる方針だ。同省の典型的な政策手法だ。新たに事例を集めるのもいいが、300以上もあるロケットの事例を入れない手はない。さらに、事例を集めて公開して終わり、というのもよくあるパターンだ。予算は単年度主義でも、成果は積み上げてもらいたい。
ロケットの後継と言える神奈川県鎌倉市の不登校支援策を取材した。異才にこだわらず、不登校など学校に馴染みにくい子どもたちを対象にした。ロケットのプログラムのほとんどを企画・運営した福本理恵さんが内容を進化させた。福本さんは「世界の才能教育のほとんどは、お金集めと支援人材を育成することの難しさに直面しています」と話していた。
文科省の調査によると、21年の度小中学校の不登校児童生徒数は9年連続で増加し、初めて20万人を突破。不登校の小中学生のうち36%、8万9千人は、学校や地元の教育支援センター、フリースクールといった組織にもつながっていないという。(2022.11.26)