本のこと

ジャーナリストたち

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『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(梯久美子著)

 前回紹介した『狂う人「死の棘」の妻・島尾ミホ』に続き、梯久美子さんの『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(岩波新書、2018年7月)を読んだ。島尾敏雄と原民喜。ほぼ同じ時代を生きながら2人はまったくタイプが違う。共通点と言えば、いずれも「妻」が作品に強い影響を与えている点だろう。そして2人とも優れたジャーナリストとして自らの体験が代表作になっていることだ。


 原は「もし妻と死別れたら、一年間だけ生き残ろう、悲しい美しい一冊の詩集を書き残すために…」とつづった。そして、母のようにすべてを受容してくれた妻貞恵が泉下の人となったあと、広島で被爆した。「今、ふと己れが生きていることと、その意味が、はっと私を弾いた。このことを書きのこさねばらならない、と、私は心に呟いた。」

 原爆文学の白眉『夏の花』が生まれた。

 研ぎ澄まされた5感で原爆の惨禍を写真のように切り取り、文章に置き換えた。意味付けをせず、ただ見聞きしたままをつづることで浮き彫りになり、後世に伝わる事実がある。ジャーナリストの優れた「雑観」である。

 ジャーナリストにはもう一つ役割がある。梯さんは本書で、原が遠藤周作に送った手紙の内容を初めて活字にし、原の小説などの中にだけ存在していた女性の消息をたどり、インタビューに漕ぎつけた。本書の中でもっともワクワクする場面だ。新事実の発掘は梯さんの真骨頂と言ってもいい。これもまたジャーナリストの大きな仕事、スクープである。(2022.12.23)

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