本のこと

物語の世界観

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『池袋ウエストゲートパークⅩⅧ ペットショップ無惨』(石田衣良著)

 新刊が出るとつい読んでしまう。確か村上春樹さんがエド・マクベイン著『87分署』シリーズについて、こう書いていた気がする(間違っていたらごめんなさい)。そんなシリーズがいくつかある。記者にとっては石田衣良さんの「池袋ウエストゲートパーク」や大沢在昌さんの「新宿鮫」がそうだ。「虫干し2023年」の書き初めとなる今回の記事は『池袋ウエストゲートパークⅩⅧ ペットショップ無惨』(22年9月)についてだ。


 今回もヤングケアラー、外国人労働者、マッチングアプリ、動物愛護、と時事ネタを取り込み、主人公のマコト、崇らが池袋のトラブルを解決していく。最初に出版されたのが1998年だから、四半世紀続いている。時事ネタだけでなく、その時々の若者文化や風俗、ファッションを取り込み続けているのが、シリーズの特徴であり、特筆すべき点だ。マコトたちは歳をとらないが、著者の石田さんは既に還暦を超えている。


 ネット上の感想を読むと、「安心して読める」「マンネリ」といった評価が並ぶ。記者の好きな、シリーズ最初の「池袋ウエストゲートパーク」や『IWGPⅡ少年計数機』所収「水の中の目」などに比べると、作品自体が丸くなり、物足りないと思わなくもない。が、読者が求めているのは、ストーリー以上にマコトが語る物語の世界観だ。マコトや崇と一緒にいる時間を共有し、世界観に浸りたいのだ。残念だったのは、正月にじっくり読みたかったのに、ページを繰る手が止まらず、あっという間に読み終えてしまったことだ。それが物足りなさの一因でもある。

 明けましておめでとうございます。本年もお付き合いください。よろしくお願いいたします。(2022.01.03)

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