『スター』(朝井リョウ著)
若い作者なのに、随分説教臭いな。朝井リョウさんの『スター』(朝日新聞出版、2020年10月)の感想だ。『正欲』で追求した多様性の在り方、承認欲求をより身近な題材を用いて描いている。
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した尚吾と紘。二人は大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という対照的な道を選ぶ。同じ映像でありながら、質にこだわる有料の映画、無料で拡散されるが品質が保証されないYouTubeという二つの世界にあって、それぞれが抱くジレンマを描くことで、どこまで質にこだわるべきか、そもそも質は何で測られるのかという「昔から変わらない普遍的な」(朝井さん)テーマに挑む。
二項対立の形をとりながらも、事はそれほど単純ではない。その悩みは領空侵犯しながら行きつ戻りつする。二人だけではない。先輩も後輩も名監督も、料理家を目指す尚吾の恋人も、ものづくりに携わる全員がジレンマと戦っている。そして、尚吾と紘を温かく見守り励ましていく。その励ましが少々、説教臭いのだ。自らは監督を諦め、名監督の下でスクリプターという職に就いた先輩が言う。
「考えることから逃げちゃうと(中略)、バランスが大事とかさ、どうせ誰もが行き着くつまんない答えで早々に自分を甘やかすことになるから」「答えのないことを考えていられる時間って、本当に贅沢なんだよ」
本書は普遍的なテーマについて、誰もがぶつかるジレンマ、誰もが行き着く結論について書き尽くしている。説教臭くはあるが、こんなことを言ってくれる人は現実の世界にはなかなか見当たらない。だから親切でありがたい。
スクリプターの先輩が名監督の映画が好きになった理由を語るシーンがある。
「答えじゃなくて問いをくれるから」
そして著者は読者を突き放すように物語を終える。その先は自分で考えろと。本書は答えじゃなくて問いをくれる。若い人、特に表現世界を目指す人には是非読んでほしい1冊だ。(2023.03.20)