本のこと

ダイバーシティ&インクルーシブ

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『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(こまつあやこ著)

 図書館司書でもある著者のこまつあやこさんは本当に本と言葉と図書館が好きなんだな、と伝わってくる一冊だ。デビュー作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(講談社、2018年6月)のことだ。


 マレーシアからの帰国子女になった主人公沙弥は、日本の中学に順応しようと四苦八苦。ある日、延滞本の督促をしてまわる三年の「督促女王」に呼び出されて短歌の吟行についていくことに。短歌など詠んだことのない沙弥は戸惑うが…。


 展開は早くプロットは緻密に練られている。学校司書を務めたこともある著者。中学生の心情を描くのはお手の物だろう。転校生の居場所、教室でのからかいや仲間外れなどテーマは古くて普遍的だ。そこに、ポップな言葉とマレー語で言葉遊びのような短歌を道具立てとして使い、さらに多民族国家マレーシアの要素が加わることで、ダイバーシティ(多様性)とインクルーシブ(包括)という現代的なテーマにも触れた。それらをわずか191ページの中で破綻なく一つの物語として完結させている。


 「よかった。生徒と本をつなぐことができて、学校司書冥利につきるわ。」作中の学校司書、七海さんがこういう場面がある。こまつさんは自作で子どもたちと本をつなぐことができた。作家冥利につきる。本書は19年度中学入試最多出題作にもなったという。試験で気になった子どもたちは是非図書館で本書を手に取ってもらいたい。児童文学と分類されているが、大人も十分楽しめる。(2023.05.28)

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