『ぼんぼん彩句』(宮部みゆき著)
手練れの作家はたくさんいる。この人もその一人だ。記者が本を手に取ったのは随分と久しぶりである。「定年後に」と最近興味を持っている俳句に関するものだったので読んでみた。想像していた内容とは全く違っていた。が、正にイリュージョンを見ているような1冊だった。宮部みゆきさん著『ぼんぼん彩句』(角川書店、2023年4月)である。
本書は、宮部さんの句会の仲間が創作した俳句をタイトルにした12の短編集である。ジャンルは心温まる掌編からファンタジー、ミステリー、SF、ホラーまで幅広く、文体までそれぞれ違う。会話だけでト書きが全くないという実験も。息子を亡くした母親の鬼気迫る様子に心拍が速まった。髪の長いのっぺらぼうの女が迫ってくる場面では鳥肌が立った。
もはや「手練れ」というより「匠」。朝日新聞の著者インタビューで「年を重ねて想像力が減ってきているのを実感します」と話しているのには驚いた。脱帽するしかない。
それぞれの作品には恐怖感を高めるため、妄執に捉われている危険人物がよく出てくるのだが、なぜそこまで固執するようになったのかを知りたいところではある。また、タイトルとなった句の作者の創意はどんなもので、小説との違いはあるのかにも興味がある。宮部さんの句も鑑賞してみたい。宮部さんはシリーズ化も考えているようなので、是非、別の場ででも披露いただければと期待したい。(2023.09.08 84回)