本のこと

まだまだ惑い中

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『行きつ戻りつ死ぬまで思案中』(垣谷美雨著)

 垣谷美雨さんのエッセイ『行きつ戻りつ死ぬまで思案中』(2023年4月、双葉社)を読んだ。垣谷さんは小説家だが氏の小説を読んだことはない。作家として成功しながら、記者と同じような心境の人がいる、とタイトルに惹かれて手にした。


 記者より少し人生の先輩である垣谷さんは言う。
 「人の一生というのは、何歳になっても先が見えないものだと思うようになった。つい最近までは、五十代にもなれば先が見えてしまい、いまさら後悔したってすべてが手遅れだと感じていたが、それは間違いだと気づいた」


 そうなのだ。記者は還暦近くなって五里霧中。「あれっ、おかしい」と思うと同時に、この調子でいくとまだまだもんもんとし続ける予感がする。


 「…四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順う、七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰えず」。孔子の教えには「そういう者に私はなりたい」と宮沢賢治の一言を継ぎ足さなくてはならない。


 そして垣谷さんの次の一言に不承不承うなずく。「どうやら私の人生というのは壮大な暇つぶし」。偉い作家先生のきれいごとではなく、等身大の悩める人間の本音だから共感する。

 「常に楽しい気分でいる人間が勝ち組」とは有用なアドバイスだ。本書にはそのための処方箋も書いてある。この歳になると人生で何が大切かは分かってくる。惑いながら勝ち組を目指したい。次は垣谷さんの『定年オヤジ改造計画』を読んでみよう。(2023.11.22 No.102)

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