『スープとあめだま』ブレイディみかこ著/中田いくみ絵
横浜市中区にある寿町。日本3大ドヤ(簡易宿泊所)街の1つだ。取材で半年ほど通い詰めた。2022年4月に久しぶりに訪れると、牧師のMさんは「体は動くけど頭が働かなくて」と教会を退職していた。日雇い労組のKさんは大病を患い、随分やせてしまっていた。2人は60、70歳代でホームレス支援の中心人物だ。
毎週金曜日の炊き出しで料理長を務めたもう1人のMさんは21年3月、自宅で亡くなっているのが見つかった。69歳の若さだった。葬儀に呼んでもらい、遺骨を拾った。
かつては労働者のまちだった寿町は今、高齢者のまちになっている。横浜市役所の関係者は「町全体が特別養護老人ホームのよう」と評する。高齢化したのは住民だけでない。冒頭の3人のように支援する側の高齢化も進んでいるのだ。寿町で現在、医療、介護、夜回りなどで中心を担うのは50歳代だ。50歳代の医師の一人は「私なんかまだぺーぺーですから」と笑う。
ブレイディみかこさん著/中田いくみさん絵『スープとあめだま』(岩崎書店)は、雪の中、姉が弟を連れてホームレス支援に向かう絵本だ。姉弟は高校生と中学生くらいだろうか。ブレイディさんは英国在住。ベストセラー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でコンビを組んだ中田さんの絵に描かれている支援者はこの2人も含め若い人が出てくる。日英のホームレス支援事情の違いなのだろうか。
ブレイディさんは6月26日の朝日新聞朝刊で、「コロナ禍の後にくるのは貧困禍だ」と語っている。ロシアのウクライナ侵攻で物価が急上昇している。コロナで職を失い、インフレで生活が困窮する。日本でもホームレスが増えるかもしれない。
「スープと…」の弟は「ついてきてみたけど、なにしたらいいか わからないや。もう かえりたいな」と思う。だが、支援者の一人からスープを配る仕事を頼まれて居場所を得る。寿町での炊き出しで手持無沙汰にしていた記者が料理長のMさんに仕事を与えてもらい、多くの人と知り合えたように。ホームレスの人からもらったあめだまを、思いつめた表情で見つめる弟の表情が印象的だ。横浜市内には高校の探求学習の一環として寿町でのボランティアを組み込んでいる学校もある。百聞、百見は一験に如かず。是非、日本の現実を見てほしい。