学校教育

学校の特色

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『スギナの島留学日記』渡邊杉菜 『未来を変えた島の学校 隠岐道前発ふるさと再興への挑戦』山中道雄、岩本悠、田中輝美著

 ユニークな取り組みをしているいろんな学校を取材してきた。公立学校でここまで特色を出せるのか、と校長先生らの創意工夫と努力に何度も頭が下がる思いをした。だが、特色は校長先生が代わると、時間の経過とともに薄まり、消えていってしまう。残念ではあるが、後任の校長だって前任のつくった特色に縛られることなく、自分の特色を出したいだろうとは想像する。

 先生は代わっても、地域は変わらない。だから地域を巻き込めば特色を継続できる、と導入されたのがコミュニティ・スクール(CS)制度だった。その走りで最も先進的とされた公立小学校を取材したことがあるが、久しぶりに訪ねると、その小学校は校長先生が代わって地域との関係を失い、全く別の学校になっていた。

 「島留学」として全国から子どもたちを受け入れ、地域をフィールドにした課題解決学習やキャリア教育が注目を集めている島根県立隠岐島前高校について書かれた2冊を、当時の取材と重ね合わせて読んだ。島前高校の3年生だった、渡邊杉菜さんが島での生活をつづった『スギナの島留学日記』(2014年、岩波ジュニア新書)と過疎地再生の記録である『未来を変えた島の学校 隠岐道前発ふるさと再興への挑戦』(山中道雄、岩本悠、田中輝美著 15年3月、岩波書店)だ。

 『未来を…』は隠岐島を「不便な環境だからこそ身につく力がある」と強調する。2035年の未来予想図でも「ここには相変わらずコンビニもゲームセンターもデパートもない」と描いている。島が栄えてコンビニやデパートができ、都会と同じになったら、同校のユニークさが失われる。成功している理由の一つは、本来はデメリットと捉えられがちな「不便な環境」が都会では得られない宝であることに気づき、それを徹底的に追求したことだろう。

 そこに、ふるさと再興に関わった、本書の著者でもある岩本さんの理念が重なる。「期待されている成果が出せないのは三流の仕事。その人がやっているときだけ成果が出るのは二流の仕事。その人がいなくなっても、それが進化し続けるところまでやってはじめて一流だ」。その岩本さんの理念を実現するため、「特定の個人頼みではなく『チーム』をつくり、『文化』として定着させ」た先生らがいた。

  同校の真骨頂であり、島の最大の魅力である「人」を堪能し、人とのつながりを持ち帰ってもらう「ヒトツナギツアー」に協力した生徒の母親の一言が印象的だ。

 「子どもと一緒に青春だったわー」

 巻き込まれる側も楽しくなければ続かない。そうやって島の人々を巻き込んでいったことが同校が成功したもう一つの要因のだろう。島根県立隠岐島前高校はもう地域だけの学校ではない。島留学で全国から生徒が集まる全国区の有名校になっている。ぜひ13年後も「コンビニもない不便な環境」を貫き、島に希望をつなぐ全国の子供たちの留学先であり続けてほしい。(了)

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