『その世とこの世』(谷川俊太郎・ブレイディみかこ著)
詩人が「この世とあの世のあわいに/その世はある」と描けば、「地べたのライター」が「脳をアップロードしてデータとして生きるトランスヒューマン」というもう一つの「その世」を語る。92歳詩のレジェンド、谷川俊太郎さんと英国在住のコラムニスト、ブレイディみかこさんによる、詩と散文の往復書簡『その世とこの世』(奥村門人絵、2023年11月)を読んだ。
谷川さんの形而上学的な詩に、ブレイディさんが形而下の体験談と切り口鋭い考察で返す。リアルなエピソードのあわいにその世を垣間見せる詩が挟まれる。書簡の往還の後には奥村さんが詩から想起したイラスト。
話題は音楽から介護、戦争まで、時を超えて、絡まり解けて展開される。とりとめがないようで通して読むと一つのストーリーとなっている。不思議な読後感である。読み終えてすぐ、もう一度読み返したいと思う本は久しぶりだ。二人それぞれのパーツだけ読んでも楽しめる。でも、3人のコラボが本書で生み出した化学反応は、「その世」と同じ異空間である。2度目はもっと丁寧に読み進めてみよう。
ブレイディさんの本は、最近では『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』も読んだが、記者は小説よりも今回のような短いコラムやエッセイの方が好きである。(2024.02.03 No.115)