学校教育

常識のアップデート

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『星を編む』(凪良ゆう著)

 記者の住む横浜市には地区センターという、かつての公民館のような施設があり、小さな図書室を備えている。人気の新刊本がぽろっと書棚においてあったりする。凪良ゆうさんの『星を編む』(2023年11月、講談社)もその1冊だ。


 本屋大賞を獲った『汝、星のごとく』の続編だ。記者は『汝…』を読んでいない。地区センターには置いてなかった。図書館で予約しようと思ったら数百人待ち。最近よく目にする名前の作家さんだ。続編からではあるが初めて手に取ってみた。


 続編なので登場人物たちのその後が書かれており、きっと前編からのファンの満足度は高いだろう。若い人向けの本という印象だ。意外すぎる展開に戸惑いながら、おじさん記者も楽しめた。


 展開とともに戸惑ったのは、登場人物の名前だ。青埜櫂、暁海、渋柿。読めない。頭に入らない。特に暁海は何度もルビの振ってあるページに戻って確認した。だから、その名が出てくるたびに流れが止まってしまった。正解はそれぞれ「あおの・かい」「あきみ」「じゅうし」である。「明日見(あすみ)」はファーストネームでなくファミリーネーム。「さとるくん」は女性である。ただ最近、同じような体験を現実の世界でしたので、この小説のネーミングが変だとは決して思わない。


 3月の春分の日のことだ。人生で初めて「来賓」なる肩書をもらい、ある小学校の卒業式に出席した。卒業生の名簿を見せてもらった。名前が読めないのだ。それも半分以上。記者の常識の範疇をはるかに超えていた。一人ずつ名前が呼ばれて卒業証書を渡される段になって、初めて正確な読みを知った。小学女子の多くが女子大生のようにはかま姿なのと併せて驚いた。

 世界は変化し続けている。本書の登場人物中である渋柿(じゅうし)さんという編集者がこう自分に言い聞かせる場面がある。「仕事柄、感覚は常にアップデートしていかなくてはいけない」。感覚だけではない。自分の常識もである。(2024.04.07 No.119)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加