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老いての魅力

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『老いの上機嫌 90代!笑う門には福来る』(樋口恵子著)


 樋口恵子さんの『老いの上機嫌 90代!笑う門には福来る』(2024年1月)を読んだ。少し前に『老いの地平線 91歳自信をもってボケてます』(2023年8月)も。両方ともタイトルには『老いの…』とある。装丁や特大の字の大きさも似ている。老いを実況中継している樋口さんの一連の著書かと思ったら違った。まず、出版社が違う。前者は中央公論新社、後者は主婦の友社。半年に一冊。90代なのに何と精力的なと思ったら、少し書き方を変えたり、対談の相手が違ったりしているだけで、内容はほとんど一緒。


 かなり紛らわしい。読者としては「それはないよ」とも思うのだが、樋口さんのにこやかな写真を見ていると「まあいいか」と許せてしまう。許せてしまうポイントはもう一つ、ユーモアだろう。「ローバは一日にしてならず」「微助っ人(びすけっと)」などにはくすりとしてしまう。


 樋口さんの場合、ユーモアが老いてなおチャーミングなアクセサリーとなっている。記者は親の介護と自分の老後の参考に、介護保険の立役者であり、高齢者の先輩である樋口さんの著書を手に取るのだが、読んでいて暗くならなくてすむ。いや明るい気持ちになれる。

 和式トイレで立ち上がれなくなったエピソードや「立っているだけで、ふわっと倒れるのが90歳です」など、「歳をとるとこんなことになるのか」と情けなくもおかしい。ご自身をネタにした老いの実況中継は樋口さんの著書でしか読めない。とても勉強になる。


 評論家として身を立てた樋口さんは若い頃、ジャーナリスト志望だったそうだ。実際、報道機関にも所属していた。自分に材を取った老いの実況中継シリーズは今なお現役のジャーナリストであることの証しでもある。このシリーズ、出版社は問わないので、ぜひ100歳まで、いやもっと続けてほしい。(2024.04.30 No.123)

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