本のこと

惹句の功罪

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『メルトダウン』(大鹿靖明著)

 映画『オッペンハイマー』からの原子力の流れで、広島、長崎とくれば、次は福島である。2011年の東京電力福島第一原発事故とその後の東電処理スキーム、民主党菅政権の退陣までを描いた、大鹿靖明さん著『メルトダウン』(12年1月、講談社)を読んだ。大鹿さんは朝日新聞の現役の記者であり、ジャーナリストだ。調査報道を得意とする。本書はノンフィクションなのだが、それが持ち味なのだろう、大鹿さんの筆にかかると勧善懲悪の時代劇のようにも読めてくる。


 ペンで悪を懲らしめるのは大鹿さんである。まず事故の最大の責任者である東電は「夜郎自大」であり、原発再開へ県民説明会でやらせをした九州電力は「田舎大名」だ。自社の朝日新聞がスクープした経産省の幹部人事の記事についても「表面的な取材」とばっさり。


 こうした新聞紙面上ではありえない、切り捨てるような惹句は胸がすく。それにしてもよく取材している。「接触した人数は125人」だという。その上面白い。同世代の記者として頭が下がる。「すごいな」と素直に感服する。だからこそ、せっかくファクトをしっかりと積み上げた一級品のノンフィクションが、こうした惹句で強いバイアスがかかり、時代劇のように見えてしまうのが少々気になった。(2024.05.25 No.126)

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