本のこと

面倒なファン

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『おもいでがまっている』(清志まれ著)

 「さくら」でデビューした頃から聞いている、いきものがかりのソングライター水野良樹さんが小説を書いたと知り、手にした。清志まれのペンネームで2作目となる『おもいでがまっている』(2023年3月、文藝春秋)だ。


 マンションの1室を舞台に、それぞれ消えた母親を待つ平成の兄妹と令和の少年が、現代に交錯する。犯罪、親の不在…。ミステリーの要素もある。いきものがかりの曲とは全く違う作風の小説に戸惑い、違和感を感じながら読み終えた。


 小説とのタイアップで、女優の橋本愛さんが詩を書いた楽曲も聞いた。作曲は著者の水野さんだ。いつものいきものがかりの水野さんの曲であり、安心する。曲作りの際に大事にしているという「余白、空欄」もたっぷり。小説とは違う自分の物語を描ける。

 そう。違和感の在りかは、楽曲と小説のギャップにある。記者は、いきものがかりの楽曲のような、または「おもいでが…」のタイトルが示すような懐かしくも切ない内容を期待し、勝手な先入観で「違う」と思ってしまっていたのだ。我ながら面倒くさいファンである。水野さんには若い才能を是非、余さず形にしてほしい。(2024.07.10 No.132)

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