本のこと

読書の正しい楽しみ方

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『カラフル』(森絵都著)

 ヤングアダルト向けのロングセラーということしか知らないまま、森絵都さん著『カラフル』(1998年7月、理論社)を初めて読んだ。タイトルから、いじめをモチーフに多様性の大切さを訴える物語かと思った。いじめは実際、作中に出てくるが、それだけではない。自我、性、進学についての中学生の日常の葛藤から、援助交際や自殺など社会問題まで幅広い。タイトルに込められた意味も一つではなく、とても「カラフル」だった。


 生前、罪を犯して輪廻サイクルからはずれた魂が、自殺を図った中学生の体にホームステイし、自分の罪を思い出す修業に入る。自分が犯した罪は何なのか。初めになぞが提起される。いつも通り答えが何か考え、想像しながら読み進める。

 読み終わってから振り返ると、簡単に予想できる答えなのだが、記者は最終盤まで気づかなかった。物語の展開に引っ張られ、答え探しは二の次になった。そして最後にあっと驚く。


 取材をする際は、いつも仮説を立て、落しどころを見据えている。取材で仮説の正しさが証明できたときの満足感はある。それ以上に、自分の想像を超えた結論が得られたときはもっと満足度が高い。本書はそれに似た読書体験だった。


 図書館の本には帯がない。文庫本だと裏表紙などに簡単なあらすじが書かれているが、単行本には著者とタイトルと装画以上の情報はない。あとがきから最初に読んでしまうタイプの記者は時々不満に思う。ネットを検索すれば、あらすじどころかネタバレと称してオチまで分かってしまう。だが、今回は何の事前情報も持たずにまっさらなまま手に取ったことで、楽しめた。定評ある本の正しい読み方かもしれない。高1の娘に勧めてみた。(2024.08.16 No.137)

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