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昆虫記だけ読みたい

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『バッタを倒すぜアフリカで』(前野ウルド浩太郎著)

 前野ウルド浩太郎さんの前著『バッタを倒しにアフリカへ』を読んで、本格的な昆虫記を読みたいと続編に期待した。前著は昆虫記だと思って手に取ったら、ポスドクの就職活動がメインになっていたからだ。今回は、触れ込みに「学術的成果をふんだんに盛り込んだ」とある。『バッタを倒すぜアフリカで』(2024年4月、光文社)を読んだ。抜群に面白かった。1章は。


 昆虫学者である前野さんは、アフリカでサバクトビバッタという食糧危機の原因となるバッタの大発生を防ぐ可能性を探っていた。過酷な砂漠でのフィールドワークで観察と失敗を重ねながら、「雌雄は普段は離れ離れに生活し、オスの集団にメスが飛んできて交尾し、夜に集団産卵する」という仮説を立て、「集団別居仮説」と名付けた。それが1章だ。ワクワクしながらページをめくった。


 そんな中、前野さんはレックという専門用語と出会う。「オスが集まった場所に、交尾をするためにメスが訪れる」現象で、鳥類、ほ乳類、昆虫、魚類などさまざまな生物で行われているという。前野さんは「私が妄想しているサバクトビバッタの繁殖システムにそっくりではないか」「レックよ、(中略)知らなくて済まない」などと研究意欲を搔き立てられたようだが、超文系の記者は「なんだ、生物界では一般的なことなのか。しかもよく知られた現象みたい」と一気に興味を失った。それが3章だ。


 さらに本筋とは関係ない、「バッタ学のはじまり」や前著同様ポスドクの就職活動が、そちらの方が多いのではないかと思うくらい、それこそふんだんに盛り込まれ、なかなか研究の記述にたどり着かない。しかも全部で10章600ページを超える大著。昆虫記だけを読みたかった記者にとっては残念な時間となった。平易な言葉でマニアックな世界を説明し、素人をワクワクさせたファーブルの偉大さを痛感する。(2024.11.03 No.147)

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