『団地のふたり』(藤野千夜著)
藤野千夜さん著『団地のふたり』(2022年3月発行、U-NEXT)の設定である築60年より、少し後に建てられた団地に実家がある。転勤続きで社宅住まいが長かった両親が定年を機に購入したもので、記者が住んでいた期間は短い。ただ、社宅はほとんどが団地形式だったし、今も団地に住んでいる。改めて振り返ると、人生のほとんどが団地暮らしなので、とても馴染み深い。主人公の女性2人とはほぼ同年代。「ゴダイゴ、大瀧詠一、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング…」なんて出てくると、昭和ノスタルジーに共感するところが多い。
生家の団地に戻った幼なじみの団地ライフを描く。高度経済成長からバブルの時代、都市化、核家族化の受け皿だった都市の団地に戻った2人は現在55歳、独身。売れないイラストレーターのなっちゃんは、ネットで不用品を売って生計を立てている。ノエチもアカデミズムの道に頓挫し、非常勤講師を掛け持ちして暮らしている。順風満帆の人生とは言いがたい。
そんな2人が助け合いながら日常を分かち合う。毎日のように一緒にご飯を食べたり、テレビを見たり。たまに釣り堀に行ったりするだけ。何も起こらない。団地という距離感の中で緩くのんびりした日常が淡々と続く。そんな友人が近くにいる幸せは稀有だ。男性同士ではこんな関係にはなりにくい。うらやましい。
ふるさとである都会の団地に戻る人はこれから増えるのかもしれない。なっちゃんもノエチも介護が待っている。長生きすればそれだけ生活費もかかる。建て替え問題はあっても家があるのはありがたい。かくいう記者も同じである。団地暮らしを楽しむブログは多数。足るを知る者は富む。分相応な古い団地に戻ることは近未来の選択肢の一つである。(2024.12.04 No.149)