『池袋ウエストゲートパークⅩⅩ 男女最終戦争』(石田衣良著)
読んだそばから忘れていく。だからといってもう読むのを止めようとは思わない。読み始めると、途中で止めることができないほど夢中になってしまう。毎年秋に刊行される石田衣良さんの「池袋ウエストゲートパークIWGP」シリーズである。今年も『ⅩⅩ 男女最終戦争』(2024年9月、文藝春秋)を楽しんだのだが、内容は断片的にしか覚えていない。
「一度読み始めたら、途中で手放せなくなる。そして、読み終わったあと、パッと忘れてしまう…いかに面白く読ませ、大団円にもって行き、いかにあと味よく忘れさせるか、というのが作家の腕の見せどころ、腕のふるいどころというわけです。(中略)一度とりつかれると中毒になるけど、悪習ではない」
海外ミステリーの翻訳者で、記者の最も好きな詩人の田村隆一さんのミステリー論にこうあった。まさにIWGPシリーズがそれである。中毒読者としては、主人公マコトが作戦を練り、盟友キング・タカシ率いるGボーイズが敵を一網打尽にするワンパターンの事件解決を待っている。初期の作品に比べ最近は犯人にたどり着くのが簡単すぎる気もしているが、石田さんは毎回ほどほどの面白さを目指しているそうだ。それがシリーズを続かせる秘訣だと。
IWGPシリーズが続くもう一つの理由は、主人公2人のキャラクターとその関係だ。タカシが言う。「ここにいるマコトは高校時代、入院したおれのおふくろのところに毎日のように見舞いに来てくれた。自分の店の果物を持ってな。おふくろは残念ながら助からなかったが、おれはマコトには言葉で尽くせないほど感謝してる。だから、こいつは今もおれのとなりにいる」。ストーリーは覚えていなくても、タカシのこんなせりふをもう一度聞きたくて、読み返すことがある。来年も2人に会いたい。(2024.12.06 No.150)