『また団地のふたり』
前作同様、また、何も起きない。幼馴染の50代女性2人の緩い日常が描かれる。藤野千夜さん著『また団地のふたり』(2024年10月、U-NEXT)である。浅田次郎さんは最新のエッセイ集『アジフライの正しい食べ方』の中で、「『たったそれだけ』の話を盛りに盛って物語とするのが小説家の仕事なのである」と記している。本書はそんな物語である。
ショコラさんなど団地ライフを綴ったムック本が隆盛である。フィクションかノンフィクションかの違いはあるが、共通点は著者がいずれも実際に団地で暮らす60歳代女性という点だ。
「そこで」と考える。もうすぐ定年を迎える団地住まいのおじさん(=記者)が日常を描けば新しいものができるのでは、ブルーオーシャンになりうるのではないかと。悪くない。
「だが」とも思う。両者のもう一つの共通点は、日常を楽しんでいる点だ。おじさんは定年までに地域の人間関係を築けていないことが多い。そんなおじさんの侘しかったり、愚痴っぽかったりする代わり映えのしない生活など誰も読みたくはない。「春はあけぼの」の時代から日常を切り取るのは女性の方が上手いのかもしれない。日々のちょっとした変化を感じ、それを楽しめるか。女性から学ぶことは多い。
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。(2025.01.03 No.151)