『スモールワールズ』(一穂ミチ著)
これまで読んだ、パンデミックを題材にした小説のなかで最も面白かった。巧いのだ。直木賞を受賞した一穂ミチさんの『ツンデミック』(光文社、2023年11月)である。こんな力のある人がまだ埋もれているのかと驚き、その前に書かれた『スモールワールズ』(2021年4月、講談社)、『光のところにいてね』(文藝春秋、2022年11月)を続けて読んだ。
ミステリー、ホラー、ユーモア、心温まる感動小説…と幅広い作風で人間模様を描く。マルチタレントな実力者である。短編集は、自由自在な作風で長調から短調、または逆の転調が作品の雰囲気を途中で一変させる。作品すべてに、謎が仕掛けられる。そして、謎解きの後、最後の最後のどんでん返し。飽きさせない。一気に読まずにはいられない。
中でも『スモールワールズ』所収、身長188センチ、岡山弁の姉が嫁ぎ先から突然実家に戻って起こす事件を描いた「魔王の帰還」、被害者遺族と受刑者の往復書簡で綴る「花うた」は、泣かせる。重松清さんを彷彿とさせる。「ピクニック」はぞっとする。手練れである。一穂さんは直木賞受賞で一気に知名度が上がったが、BL(ボーイズラブ)小説では定評がある作家さんだそうだ。記者は読んだことのないジャンルではあるが、これだけ力を見せつけられると、読んでみたくなる。(2025.01.05 No.153)