本のこと

きょうのジョー

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『ちばてつやとジョーの闘いと青春の1954日』(ちばてつや、豊福きこう著)

 よく行く図書館に置いてあった無料の本のカタログ「先輩の本棚」で大手書店の編集者が紹介していた。「仕事にやる気が出ないとき、これを読んで奮い立たせます」と。『ちばてつやとジョーの闘いと青春の1954日』(2010年1月、講談社)である。


 漫画『あしたのジョー』の作者ちばさんが漫画を執筆していた当時のインタビュー記事などを、漫画評論などの著作がある豊原こうきさんが時系列にまとめた労作だ。

 「力石が減量している時は、自分も減量している気持ちになってノドがカラカラになりながら描いているわけです」「ジョーがリングの上で吐くところを描いていると、こっちも吐き気がするんです。そのくらい一体になっていました」。完全燃焼したのはジョーだけでなく、作者のちばさんもだったことが分かる。


 「金竜飛よ、おまえは力石に劣る」。ジョーの名言の数々がどう生み出されたのか。結果としてラストシーンの伏線になった、ジョーと紀ちゃんとのデートシーン。「まっ白に燃え尽きたいんだ」というジョーに向ける紀ちゃんの眼差し。原作者の高森朝雄さんが考えていたラストシーンは…。創作秘話も興味深い。


 ただ、やはり本書以上に、漫画作品そのものに奮い立たされる。ジョーが生きていたのは「きょう」であり、「あした」を見届けることはなかった。「がむしゃらに、純粋に」いまを生きる「きょうのジョー」の姿が胸を打つ。自分にはできていないから。逆説的だが、だからこそ作品は永遠性を持ち、あしたに生き続けている。実家の押し入れにしまい込んだジョーをもう一度読み返したくなる。(2025.03.09 No.160)

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