『花まんま』(朱川湊人著)
映画化を機に前情報を一切持たずに読んでみた。タイトルの意味さえ不明なまま。朱川湊人さん著『花まんま』(2005年4月、文藝春秋)である。直木賞受賞作に外れはないはずと。読後、初めて読む作家である著者について検索して調べてみると、ホラー作家という肩書を持ち、本書はノスタルジック・ホラーという分野だそうだ。初めて聞くジャンルだ。
特定分野(朱川さんの場合はホラー)に強みを持ち、時代やまちを描写できる作家は強い。表題作を含む短編集は、不思議な出来事をベースに、それらをいずれも昭和30~40年代の大阪下町の子どもたちが体験することで、一般にも郷愁を覚え、共感しやすい内容になっている。ホラーというより日本語の「奇譚」という言葉の方がぴったりくる。個人的には映画化された表題作より最後の「凍蝶」が好きである。
今日は5月5日端午の節句。我が家の子どもたちはそれぞれ勝手に過ごしていて成長を祝うこともなくなった。そんな中、期せずして同じ時代を過ごした子どもたちの奇譚集を読み、自分の時間をさかのぼる子どもの日となった。ちょっと温かく、切ない。(2025.05.05 No.164)