『ディープ・スロート 大統領を葬った男』(ボブ・ウッドワード著)
2005年の公表当時は、大きなニュースとなったのを覚えている。これまで読んでいなかったのが自分でも不思議だ。ボブ・ウッドワードさん著『ディープ・スロート 大統領を葬った男』(05年10月、文藝春秋)だ。1972年の米ウォーターゲート事件でニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントン・ポスト紙ウッドワード記者の情報源であり、取材の「道しるべを示し、情報や洞察をさずけ」た人物の正体がFBIのナンバー2、マーク・フェルト氏だったことを記した。事件を追った『大統領の陰謀』『最後の日々』に次ぐ完結編となる。
『大統領の陰謀』では深夜の誰もいない駐車場で会う謎の男として登場していたが、本書では実名で当時のFBIの状況やフェルト氏の立場などを絡めて描写することで説得力を増す。実名報道の力だ。『大統領…』に比べ登場人物も少なく、分かりやすい。
ニクソン大統領らはディープ・スロートの正体を知っていたが、更迭できなかった。ポスト側からディープ・スロートについての情報が政権側に漏れ、ポストも「ディープ・スロート問題を抱え込んでいた」。
本書は、そんな中での取材過程が克明に記されている。最近、海外ミステリーの古典を読み漁っているのだが、ロス・マクドナルドのハードボイルド小説で探偵リュウ・アーチャーとともに謎に迫っていくような臨場感を味わえる。ただ、そのリアリティは本書が格段に上だ。ノンフィクションの真骨頂だ。フェルト氏は「大統領を葬った」だけでなく、米政治ミステリー最大の謎の主人公でもあった。(2025.05.14 No.165)