『ハヤブサ消防団』(池井戸潤著)
池井戸潤さん著『ハヤブサ消防団』(2022年9月、集英社)を開くと、本のそで、登場人物を紹介する欄に怪しげな新興宗教の名前が出てくる。紹介文の「やがてのどかな集落でひそかに進行していた事件の存在を知る―。連続放火事件に隠された真実とは?」と合わせて考え、全体の構図が見えてしまった。太陽光パネルを絡ませたのは現代的だが、記者が地方勤務をしていた30年前にその県の山奥の土地でオウム真理教のある動きがあったからだ。
それでも本書は登場人物の誰もが疑わしく、最後まで二転三転しながら進むので楽しめる、後半は。それまでが長いのだ。やっと動き出したと思うと、主人公であるミステリー作家はホタル狩りに出掛けてしまう。主人公が推理して仮説を立てると、地蜂をとりに行く。今度こそと思うと、渓流釣りに向かう。また、それぞれの描写が長いのだ。
池井戸さんは幅広い趣味を持ち、プロはだしなのだと何かで読んだ記憶がある。本書はその一端を物語っているし、対談で自身の地元を紹介したかったと語っている。別途、「半沢直樹の休日田園ライフ」でもエッセイでもいい。需要はあると思う。記者も読みたい。本書に田舎暮らしを強調する描写が必要なのは分かるのだが、そうした余話をどこまで書き込むか、バランスが難しい。(2025.06.20 No.170)