『BUTTER』(柚木麻子著)
英国で賞をとったことで再評価された1冊だ。柚木麻子さん著『BUTTER』(2017年4月、新潮社)である。交際男性3人から財産を奪い殺害した疑いで逮捕、起訴された女性を取材する週刊誌の女性記者が、被告の独特な価値観に惹かれ翻弄されていく。首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗死刑囚がモデルだ。拘置所の接見で行われる心理戦は『羊たちの沈黙』のレクター博士とクラリス捜査官のようであるが、主題はそこではない。]
仕事に打ち込む主人公の女性記者、仕事を辞め妊活に邁進するその友人が自分に自信を持てず、自分を追い詰めるように生きているのに対し、「若くも美しくもない」のに3人の男を手玉にとり、「内側から湧き上がる自己肯定感が、バネのようにその所作や表情にはりを与えている」被告を対比させることで、ルッキズムや家庭的な女性像など「こうあるべき」という見えない規範を押しつけられる現代女性の不自由さをリアルに浮き彫りにしていく。
不自由なのは男性も同じだ。主人公の恋人が応援していたアイドルが太ったからと、推しをやめようとする場面がある。「ただ単に、彼女が(太って)批判されているから、応援しなくなったんだよ。たくさんの人が嗤うような女の子を好きでいるのが怖くて、自分まで嗤われるような気がして、(略)自分が何を好きかさえ、いつのまにか誰かに決められるようになってた」
少数派になることの恐怖。そのたがを外し、自らをどう再構築していくかが本書の最大のテーマだ。単行本の初版発行は8年も前。ルッキズムはポリティカルコレクトネスのもとタブー視されるようになった感はあるものの、まだまだアップデートの途中だ。本書に古さは感じないし、男性が読んでも楽しめる。バターをふんだんに使った料理の描写は読むだけでお腹がいっぱいになる。決着を読むと仕方ない気もするのだが、主人公の取材方法がバッシングの対象になる最終盤の展開は、同業者として理解ができなかった。(2025.08.19 No.175)