『京都ものがたりの道』(彬子女王)
〈五感を使いながら歩いていると…〉。三笠宮家の彬子女王さまによる京都ガイド『京都ものがたりの道』(2024年7月、毎日新聞出版)にはこうある。五感を使う。まさに散歩の極意である。レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』にも通じる。
堀川通では〈青空に照り映える銀杏の葉に、心躍る時季ががやってきた〉と色彩のコントラストを楽しむ。勤務先の京都産業大学のキャンパスでは初鳴きのセミに〈蝉は山から里に下りていくものらしい〉と学ぶ。今出川通に並ぶパン屋の味に〈うきうきしてしまう〉。
彬子さまが使うのは五感だけではない。疲労のサインの〈手先や顔にブツブツ〉、自らの記憶に刻まれた〈ノスタルジックな思い出〉、〈京都という街は、タイムカプセルのようだ〉と時間旅行という想像の力まで総動員して道歩きを楽しむ。京都の街をゆっくり歩きたくなる。
彬子さまは研究者でもある。好きな街京都での五感を使った散歩から得た日常の気づきをもとに探究を始める。気づきは1000年の歴史と絡めたエッセイ集という形を与えられ、〈私はますます京都という街が好きになった〉。文部科学省的にいうと、探究による学びがらせん状につながっていくお手本だ。
立春の数日前、ジョギングの途中、枯れ野に小さな紫の花を見つけた。早くもスミレである。甘い香りを放っていた。春を感じ、うきうきしてしまう。五感を使えば、千年の都でなくても「ものがたりの道」が見つかる。(2026.02.06 No.189)