本のこと

女性解放

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『60代ひとり暮らし 軽やかな毎日』ショコラ著


 『60代ひとり暮らし 軽やかな毎日』(ショコラ著、宝島社、2022年)を読んだ。「人気シニアブロガー、ショコラさんの日常を拝見」と、60代女性のひとり暮らしの日々を紹介している。彼女のブログには、3連休の最終日など「そういえばこの3日間誰とも喋っていない」などと書かれていたりするが、それさえもひとり暮らしの特権のようだ。「いまが一番幸せ!」(表紙より)と。


 ショコラさんはローンを完済した都内1LDKのマンションに住み、月12万円の年金でひとり暮らしをしている。週休3日で無理なく働き、パート収入は老後の備えにしている。楽しく節約し、住まいを整え、ひとり暮らしを楽しんでいる。ブログの文章はみずみずしく、つつましくも軽やかな日常を伝えている。だが、そんなブログはいくらでもある。有名人でもない60代ひとり暮らしの普通の女性の何が数10万PVを記録するほど引き付けたのか。


 ポイントは、ショコラさんの来歴かもしれない。高校卒業後、20代で結婚し2男を育てた。結婚に際し、専業主婦になり、46歳で離婚している。専業主婦になるとそれまでの仕事のキャリアは断たれる。さらに離婚となれば生活のための再就職を迫られる。特別な資格や能力でもない限り、46歳女性の再就職先は限られる。専業主婦になることで女性が失う収入は2億5000万円から3億円といわれる。本書とブログは、ショコラさんがそれを乗り越え、「小さくも豊かな暮らし」を送れているという身近な成功物語なのだ。それ以上に、結婚、専業主婦、出産、子育てという枷(かせ)から自由になった女性解放物語に共感を覚えるのかもしれない。


 定年を迎え、もしくは間際になって慌てる会社人間の男たち(記者もその予備軍)の多くが成仏できず、どんより、悶々としている。男性も仕事、会社、社会という枷に囚われている。いや、薄々気付きながらも出口を見つけられずに、自らしがみ付こうとしている。ショコラさんの次の言葉をかみしめたい。


 「身の丈以上のことを求めようとは思いません。気力と体力と、心の声に耳を傾けながら、少しでも仕事をして、笑って生きていた。そんなささやかな願いが満たされればそれが幸せ。60代という人生の節目を超えたいま、本当にそう思います」(了)

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