学校教育

虫捕る学校

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『虫捕る子だけが生き残る 「脳化社会」の子どもたちに未来はあるか』(養老孟司、池田清彦、奥本大三郎著)

 解剖学者の養老孟司さん、生物学者の池田清彦さん、仏文学者の奥本大三郎さんという虫好きの大家による鼎談『虫捕る子だけが生き残る 「脳化社会」の子どもたちに未来はあるか』(小学館101新書、2008年12月)を読んだ。

 池田「虫捕りには、創造性、忍耐力、反骨精神などを養う、すべての要素が詰まっている。もし、あなたが、あなたのお子さんの人生を楽しく、有意義なものにしたいと願っているのなら、是非、『昆虫採集』と『昆虫収集』を薦めたらよいと思う(あなたではもう遅い)。金持ちになるかどうかは保証の限りではないが、幸せになることだけは約束しようではないか」

 奥本「頭とカンと体を使って、生きた虫を相手に闘って、それを捕る。捕ったら今度は自分の目で良く見て、文献を調べる。これが科学の第一歩になるんです。本を読むことや文章を読むことにもつながるし、標本作りは手先の器用さを養うことになる」

 養老「数ある遊びの中でも虫捕りがなぜいいかというと、それはほぼ理想的に脳が回転するからです。感覚から入って、計算して、その結果が運動として出て、出た結果が再入力される。虫を見て、『いた』と思ったら、筋肉を動かして、捕まえて、自分で調べて、票本を作って、考えて、また虫を見て…という具合に、インプットとアウトプットが連鎖しながらくるくる回り続ける。(中略)脳みそを本当に発達させようと思ったら、座学中心の教育なんてありえない」

 大家3氏がそろって虫捕りがいかに優れた教育効果を持つかを論理的に、また、熱く語っており、強い説得力がある。

 そんな教育を都市の学校現場で実践している先生がいる。横浜市立六浦小学校の尾上伸一校長先生だ。記者が尊敬する尾上校長は、赴任する先々でトンボ池や田んぼをつくり、校長になってからは校庭を里山に変えてしまった。里山をつくることで、虫が集まり、学校内に生態系が復活した。同小の1年生は今年、ヒキガエル捕りに夢中になった。すると、今度は餌となるダンゴムシやコオロギを探しに休み時間に虫捕りだ。それがこの学校の日常だ。尾上先生は「豊かな体験と温かな人の輪の中で育つ子どもは幸せをつかもうとできる。校長10年目の確信です」と語る。

 最近、養老さんの別の文章を読んで、同じく虫好きの尾上先生に「お二人、同じ匂いがします」と感想を伝えたら、「はい。養老先生とは一度飲んだこともあります。その時はずっと虫の話をとことんさせていただきとても楽しかったです」という答えが返ってきた。

 「自分にとってのバイブルのひとつです」と尾上先生が紹介してくれたのが本書だ。第1章は教育論なのだが、2章の環境論は、虫オタク(失礼)の3大家が、虫音痴の記者が聞いたこともない虫の名前を挙げて、専門的な話で盛り上がっていてちょっと難しい部分もあるのだが、それが何とも楽しそうでうらやましい。池田さんは「あなたではもう遅い」というが、まずは我が家の小さな畑の虫から観察してみよう。それと、虫好きの中学生の甥っ子とその親にもエールを送ろう。

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