『ボーダー 移民と難民』佐々涼子著
〈国のはざまで苦境に陥る人たちのことを何も知らなかったし、知ろうともしなかった。〉
日本語教師をしていた経験のあるノンフィクションライターの佐々涼子さんは新著『ボーダー 移民と難民』(集英社インターナショナル、2022年11月)でこう書いている。08年のリーマン・ショック後、外国人労働者の子どもたちの教育について、国際機関のスタッフとの共著がある記者も同じことを告白しなければならない。そして日本の出入国在留管理局のあり方について「いつの時代のどこの国の話?」と思ったことも。
死と向き合う取材を多くしてきた佐々さんの新著は難民と移民について。日本語教師というかつての仕事とリンクし〈10年がかりの著作〉だという。入管については、名古屋入管で収容中だったスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが体調不良を訴え続けていたにもかかわらず、適切な治療を受けないまま死亡した問題でクローズアップされたが、本書は難民認定を受けられない多くの難民を追うことで、この国の人権感覚の欠如と非情さを浮き彫りにしている。
一方で、本書は移民についても言及。お隣韓国の最低賃金が日本を上回ったことなどを挙げ、〈やがて他国の経済力が上がってくれば(技能)実習生はこなくなるだろう〉と予測する。
米国勤務を終えたばかりの経済官僚は当時、記者にこう語った。
「日米どちらも少子高齢化が進み経済は細らざるを得ない。日本は失われた20年と言われているのに、米国は景気回復を果たした。移民を受け入れ、人口減少に歯止めをかけたからです。日本も経済官庁は移民の受け入れに積極的なのですが、法務・警察関係がね…」
韓国に限らず、アジアの発展は目覚ましい。先進国日本がボーダー(境界)のあちら側の国になる日はそう遠くないのだと思う。本書を読み終えた27日の新聞朝刊に、ウィシュマさんの問題で、検察審査会が、殺人などの容疑で告訴・告発された当時の局長ら13人を不起訴(嫌疑なし)とした名古屋地検の処分について「不起訴不当」を決議したという報道を目にした。(2022.12.29)