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『かか』(宇佐見りん著)
『推し、燃ゆ』(同)

 〈そいはするんとうーちゃんの白いゆびのあいだを抜けてゆきました。〉
 宇佐見りんさんのデビュー作『かか』(2019年11月、文芸賞・三島由紀夫賞受賞)冒頭の一文だ。「かか語」なる方言と平仮名の多さ、それに一文の長さでとにかく読みにくい。ワードで書くと、この一文に3カ所チェックが入り、赤い波線が下に引かれる。それが最後まで続く。
 複雑な家庭環境にある19歳の浪人生の女性、うーちゃんが、かか(=母)への愛憎に葛藤しながら自立してゆく青春物語だ。女性固有の生理と感情の揺れについての描写は、川上未映子さんの『乳と卵』『夏物語』を想起させる。
 一方、『推し、燃ゆ』(2020年9月)も成長ストーリーだ。主人公の女子高校生、あかりは〈保健室で病院の受診を勧められ、ふたつほど診断名がついた。〉とあるように、何らかの生きづらさを抱えつつも、「推し(好きなアイドル)」の解釈に心血を注ぐ青春物語だ。冒頭の文章は〈推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。〉と小気味いい。読みやすい。「かか」とは異なる。
 『推し…』は芥川賞を受賞し話題になったが、記者は断然『かか』推しである。最初に「読みにくい」と書いたが、読み終わると文体が女性の生理と感情を描写するのに合っていることに気付く。さらに、読みにくさが「ファスト読書」を許さず、じっくり読ませるための仕掛けにもなっている。(2023.01.08)

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