2月1日の朝日新聞朝刊に眼を射た記事があった。続けて2回読んだ。尊敬する同世代のノンフィクション作家、佐々涼子さん(54)が悪性脳腫瘍と診断され、闘病しているという。佐々さんのツイッターで確認した。最新刊『ボーダー 移民と難民』(2022年11月)をつい先日、読んだばかりだった。
終末期医療の現場をつづった前著『エンド・オブ・ライフ』(2020年2月)は、難病の母の看取りをきっかけとして、自ら病を得た看取りのプロである友人看護師の生きざまを軸に7年越しで書き上げたという。『ボーダー』は自身のかつての貧しさや、日本語教師時代に在留外国人と接した経験をもとに人間の心のボーダー(境界)に迫る。
いずれも体験を出発点にしているから対象への切り込み方に思い遣りがある。体験に根差しているから説得力がある。何より佐々さんにしか書けない唯一無二の作品になっている。
記者は『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(2014年11月)、東日本大震災後の印刷所の復活を描いた『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(同6月)が大好きである。これらでも命や死をテーマに扱っている。
佐々さんは、『エンド…』の取材中、執筆のつらさなどから身体のバランスを崩したそうだ。分かる。記者は横浜のドヤ(簡易宿泊所)街を半年ほど取材したことがある。かつての労働者のまちは、市の幹部が「まち全体が特養(特別養護老人ホーム)のよう」と言うように一人暮らしの高齢者のまちになっている。炊き出しでお世話になったМさんは取材後、自宅で一人亡くなっているのが見つかった。遺骨を拾わせてもらい、寿の仲間が執り行ったお別れの会に参列した。死が身近にある、しんどい取材だった。
自らの体験を踏まえ、生と死に向き合う人々について多く作品にしてきた佐々さん。病を乗り越えるとともに、その体験を一人称のノンフィクションとして書いてほしい。それが佐々さんのカルマのような気がする。これからもぜひ、佐々さんにしか書けない唯一無二の作品を多く読みたい。ご回復をお祈り申し上げます。(2023.02.05)