本のこと

サラリーマンの家族

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『毎日が日曜日』(城山三郎著)

 舞台はワークライフバランスなどお構いなしの昭和の総合商社。作品全体の古さは否めないが、左遷、定年という節目は現代も通底するテーマだ。「企業戦士」を主人公に据え、サラリーマンにとって幸福な人生とは何かを問う定年世代必読の書、城山三郎さんの『毎日が日曜日』(新潮社、1976年1月)を、身に沁みながら読んだ。


 城山さんは「すり切れんばかりに働いてきて、さて、そのあと長い人生を、『多く』を失いながらどう生きるのか。これは大問題だと思った」と創作の動機をつづり、作中で定年後について「『気ままで長生き』するためには、少しばかり内容があり、働きがいのある生活が必要のようであった」とアドバイスしている。


 記者が注目したのは、登場人物の家族との関係だ。海外生活の長い主人公、沖は同僚に漏らす。「結局、人生にたしかなのは、妻子を愛するということだけだという気がする」。京都での単身赴任が解かれる沖に妻は「栄転とか左遷とか、子供たちには、そんなこと関係ないのね。もちろん、わたしにも関係ないわ」と一緒に暮らせることを喜び、「ありがたいわねえ。みなさんが、気をつかってくださって」と周囲への感謝を伝える。


 一方、「退職、バンザイ」と強がりながらも一人暮らしの寂しい毎日を送る、もう一人の主人公ウーさんは、沖一家との関りを通して再び社会と繋がっていく。時代が変わっても通底するもう一つは、家族・社会とのつながりの大切さだろう。


 本書を読んでいる脇で、テレビが教えてくれた。三省堂の国語辞典から「企業戦士」という言葉が削除されたそうだ。「社畜」という言葉は残っているという。サラリーマンにも不易と流行がある。定年に困惑するのは「社畜」世代までで、ワークライフバランスを大切にする若い世代はもっとしなやかに定年を乗り切るのかもしれない、家族とともに。(2023.06.25)

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