日々のこと

治る病気

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『軽症うつ病』(笠原嘉著)

 心身の不調が1年以上続いている。「精神科」の敷居を越えたのが昨年11月。「適応障害」と診断された。その際、この病名は6カ月しか使えないのだと言われた。半年後の今年5月、主治医に改めて聞いた。今度は「気分変調症が一番近い」といわれた。「うつ病ほど重度ではないが、抑うつ状態が長期にわたって続く慢性疾患」だそうだ。

 初めて聞く病名だった。ネットで検索した。うつ病の一種という分類上の位置づけは分かったが、どの説明も通り一遍の同じ内容で要領を得ない。その中で「軽症うつ病」という言葉がヒットした。正式な病名ではなさそうだが、本も出ている。読んでみた。日本を代表する精神科医、笠原嘉さん著『軽症うつ病』(講談社新書、1996年2月)だ。

 例示された患者さんの症状を読むと「あるある」だった。「なんでもない小決断ができない」「出勤しても役所(会社)が近づくにしたがい、逃げだしたくなる」「一番苦しいのは、睡眠がスムーズにいかないこと、寝つきはまずまずだが、夜中に何度も小刻みに目が覚める。それだけではなく朝4時ころになると、もう寝られない」「身体的な訴えで、残りやすいのは睡眠の軽度の異常、暑い寒いの感覚の微妙な異常」「年齢相応の人間的成熟にいささか欠ける」。俺だ、と思わざるを得ない。


 会社の産業医には「症状が長く続いているのが気になる。治るのに3年くらいかかるかも」と言われた。この鬱屈した気分や不快な動悸が3年も続くのか。冗談じゃない、と思った。

 そんな中で本書は福音だった。薬物療法を補完し、外来診療でもできる「小精神療法」を提唱している。日本の精神医療は健康保険制度上ほとんどが10分診療だそうだ。記者も毎月10分の診察を受け薬を処方されるだけだ。これで治るのか?とはなはだ疑問に思っていた時だけに、実際に治った症例を多く示されると心強い。

 それに何より本書は元気づけられる記述が多い。
 「大体のところ『こういう処方とこういう精神療法によってどのくらいの期間かけて治療するとどういう状態になる』という見通しができるのです」「気分の障害にすぎないのですから、過剰な悲観をどうかお捨てください」「ほかの精神的不調と違って、気分障害は本質的には良性で、放置しておいても何年かすれば自然に元にもどるのです」

 その上で笠原さんは指摘する。
 「病気を切り抜けた喜び、わずかな幸せへの感謝、時の流れからちょっと外れて立ち止まった人間にしか可能でない少々の脱俗性、人間の歴史とか成熟とかについての新たな関心、そういったことをどうぞ人生におけるささやかなプラスとお思いになって下さい。それは再発の予防にも一役買うかもしれません」


 滋味ある金言である。少し元気になった。早くこんな境地に達したい。(2023.07.08)

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