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高齢者になるとは

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『老~い、どん! 70~90代あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』(樋口恵子著)

 記者の、そして人生の大先輩である樋口恵子さんの『老~い、どん! 70~90代あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』(婦人之友社 2019年12月)は、「高齢者になるとはどういうことか」をリアルに教えてくれる名エッセイだった。


 健康寿命と平均寿命の間のおよそ10年を「ヨタヘロ期」という、執筆当時87歳の樋口さんは、記者のひとり暮らしの父とほぼ同年代。介護は他人ごとではない。記者自身はくたびれてきたとはいえ、まだまだ頭も体も動く。父は腰を圧迫骨折してから「痛い、痛い」と嘆き、急激に元気をなくしたが、どうしてあげたらいいか分からない。まず老いを理解できない。


 それが、本書を読んで氷解した。重りを腹に付け妊婦を疑似体験したときのように。辛さ大変さ、億劫さが想像できる。痛い、ままならない身体。精神状態はダウンし、すべてに意欲をなくす。それらを樋口さんの実際の体験を詳らか(帯では上野千鶴子さんが「プライバシー全開!」と紹介)にし、具体例を挙げながら、的確に平明な文章で書かれているから伝わるのだ。暗鬱にならないようユーモラスに書かれているが、「父の言っているのはこういうことだったのか。それは不機嫌にもなるだろう」と腑に落ちた。あっ晴れな筆力である。


 樋口さんの尊敬すべきところは、そんな気が重くなりがちな現状を潔く?受け入れ、「その中にも存在する喜びを見つけ、共に老いる幸せの条件を探し求めたい」という姿勢だ。


 ユーモアを交えながらも「本当に長寿は試練です」と言うべきことは言う。個人にとっても社会にとっても厳しい現実を伝え、我々人生の後輩たちを戒める。その上で「人間幾つになっても修行ですなァ」と自身も「ケアされ上手」への道を目指す。介護者としてではなく、いずれヨタヘロ期を迎える自分ごととして、かくありたいと思う。「人間幾つになっても修行なのかァ」と、楽になれそうにない未来にため息をつきながら。本書には続編『老~い、どん!2 どっこい生きてる90歳』が出ている。読んでみよう。(2023.07.17 70回)

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