『「発達障害」と間違われる子どもたち』(成田奈緒子著)
13年で約10倍に急増!増えたのは本当に「発達障害」なのか―。小児科医であり親子支援などに取り組んできた成田奈緒子さん著『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春新書、2023年3月)の表紙の帯が示す数字は、通級指導を受ける児童生徒が2006年の7000人から19年には7万人に増えたという文部科学省の調査結果から引用している。著者は「発達障害の診断がつかないのに、見分けがつかない症状を示している状態」を「発達障害もどき」という惹句で表し、似て非なるものである「もどき」が増えているのだと主張する。教育現場を含め多くの人の実感でもある。
発達障害は「先天的な脳の機能障害」。「診断できるのは、免許を持った医師だけ」というのは知っていたが、「何科(小児科、耳鼻科など)の医師でも診断はつけられる」というのは本書で初めて知った。症状を可視化できず数値で示すのも難しいだけに、専門家以外の診断に割り切れなさが残る。
インクルーシブ教育の先進校を半年にわたって取材したことがある。グレーゾーンだった子の保護者が、障害者手帳を取得し小学校の特別支援学級に入れようと、強く医師に迫って発達障害の診断を付けてもらったと明かしてくれた。実際に子どもに接してみて、「この診断正しいの?」と診断内容に不信感を持つ教員も少なくなかった。本書は教師など「医師以外からのプレ診断ももどきのひとつ」「教育現場での誤解や無理解」などの表現があり、教育現場と医療現場が相互不信に陥っているのではないかと心配になる。
重要なのは本書が強調するように「今の子どもの状態がすべてではない」という点だろう。診断についても本書は「『主観的』で、『流動的』なもの」「そのときによって診断結果が異なる可能性もないとはいえない」と認めている。そもそも診断はレッテルを貼るためではなく、その子に合った配慮につなげるためのものだ。実際、合理的配慮を徹底した結果、支援級から一般級に転籍する例を取材で多く見てきた。子どもは成長する。
その成長を促すために本書が勧めいるのが「生活の改善」だ。大人も子どもも夜型の生活が増え、正しい生活リズムを身に付けられずに育ち、それが脳の発達にも影響を与え「発達障害もどき」を増やしているのだという。このため、本書はすぐにできる取り組みとして家族そろっての「早寝早起き朝ごはん」の徹底を挙げている。「もどきからくるものであれば、生まれつきの脳の凸凹(発達障害)とは事情が少し違うので、変化の速度は速い」とも言う。
発達障害への理解が進み、日々子どもたちに接している現場の教師らにとっては、周知の内容だが、初めての子育てで「うちの子、もしかしたら…」と不安を抱える保護者らに入門書と勧めてみてはどうだろうか。本書は「もどき」とキャッチ―な言葉を使いながらも、実際は当たり前をできずに不調に陥っている現代人の生活の乱れに警鐘を鳴らしているのだ。(2023.07.20 71回)